政治四季報

総理の時間の使い方

NXJIリサーチ

総理大臣の時間は、国家にとって希少な統治資源である。経済と安全保障が一体化し、どの国と組むか・どの分野に国費を投じるかという判断が首脳のもとに集まる時代にあって、重要政策の構想・判断や首脳外交等、「総理にしかできない仕事」の重みは増している。将来の国際環境の変化を見据えて、従来の慣行に縛られず、総理の時間を支える仕組みを見直すことが重要である。

本レポートでは、総理経験者や元官邸関係者等へのインタビュー、および関連するテーマへの多角的な調査を統合した。総理の時間を「質」と「量」の二つの観点から分析し、官邸・国会・公邸という三つの現場に対して五つの提言を示した。

なお、本研究は個別政権の評価を行うものではなく、政権・政党に横断的な提言を行うものである。

研究を通じて見えたのは、年2,000回を超える面会、年200日に及ぶ国会会期の下での国会対応、さらには公邸での生活や健康の自己管理にも対応する密度の濃い日程。そして、準備期間なしにロケットスタートする官邸チームと日々走りつづけ、必要なインプットや休息の時間を自ら都度調整しながら判断していく、優秀かつタフな個人の能力に大きく依存した官邸運営の現状であった。

「総理にしかできない仕事」の価値を最大化するには、総理を支える最適な官邸チームを組成し、総理の判断力を高めるための方針やノウハウを蓄積し、国会答弁は党首討論に原則集約して重要政策の決断や首脳外交への機動性を高め、公邸も総理の睡眠や栄養管理を支援する環境に整えるべきである。

総理の時間の使い方を、より国益に資するものとしていく今後の議論や検討において、本研究および提言がその一助となれば幸いである。

(課題)

時間の質の課題:

  • 総理の判断力|インプットやひとり時間が限られ、多量の案件に判断の質が低下する
  • 総理のチーム|人事の基準や準備期間がなく、総理の時間を支える官邸チームの力を最大化できない

時間の量の課題:

  • 官邸の時間|年2,000件超の面会の多さに加え、必須でない面会にも総理の時間が消費される
  • 国会の時間|年約200日に及ぶ国会会期での国会対応、直前まで不確定な日程が外交等を圧迫する
  • 公邸の時間|生活の維持に総理自身の時間が割かれ、栄養管理や睡眠も行き届かない

(提言)

提言1 官邸|総理が対応すべき案件を厳選し、それに基づくスケジュール管理の基準やロジのノウハウを制度的に継承する​

提言2 官邸|首班指名前に準備期間を設け、首席秘書官を軸とした人事で官邸マネジメント体制を強化し、案件・スケジュール管理の実効性を高める

提言3  国会|予算委員会を含む各委員会への総理出席は、原則不要とする

提言4  国会|総理答弁を党首討論に集約し、総理が自由に使える日程の予見可能性を高める

提言5  公邸|公邸に料理人やハウスキーパー等の栄養管理や生活支援を導入し、総理が公務に専念できる環境を整える

本調査では元総理・元官邸関係者等へのインタビューに加え、面会データの分析や様々な文献調査を行った。課題と提言の検討ではその知見を統合している。各詳細は本編の関連各章を参照されたい。

(面会データの分析)記録上で確認できる範囲だけでも、多くの歴代総理が年2,000件超の面会を行っている。与党からの提言受取りや、企業・業界団体との面会は増加傾向にあり、表敬や観光PRなどの訪問もコロナ以前より多い。

(諸外国の時間管理の仕組み)英国は年約30回、1回30分のQuestion Timeに首相の議会説明が集約される。ドイツは改正を重ねた末、現在は年3回60分の枠で首相の政府質疑を行う。米国は大統領制で異なるが、ホワイトハウスで大統領の時間の守り方が受け継がれ、専門組織が面会等の管理を支援している。

(認知科学・睡眠医学等の知見)慢性的な睡眠不足は注意力の低下につながり、判断すべき案件数が多いこともパフォーマンスを落とす原因となる。適度な睡眠・運動・休息に加え、重要度の低い判断数を減らす工夫も重要である。

また、本研究では野田元総理(第95代)、岸田元総理(第100・101代)への特別インタビューを行い、政権当時の総理の時間の使い方を振り返っていただいた。内容は特別インタビューとして掲載している。

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著者

  • 所長

    小倉 將信

  • ディレクター 兼 上級研究員

    鈴木 智之

  • 主席研究員

    増田 剛

  • 研究員

    齋藤 美空